2006年04月24日

一人で自室で読む本

この記事は「100文字で」様主催の「たらいまわし・本のTB企画 第23回『笑う門には福来たる! “笑”の文学』」に参加させて頂いています。
一つのテーマに沿った本の記事を書いてトラックバックしあうという、
大変面白い企画です。

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「この本は電車で読まないで下さい」
ユーモアエッセイやユーモア小説につけられるポップの常套句である。

しかし、である。
「電車でよむな」というだけの警告では、人前で恥をかく危機を回避しきれないのではなかろうか。

もしもボサノヴァの流れる静かなカフェで「吉里吉里人」を読んでふきだしてしまったら、
すっかり皆の注目を集める大惨事だ。
あるいは、駅前で待ち合わせをしている相手が
牛への道」を読みながらにやにやしていたら、
ちょっと近付き辛いではないか。

「電車・カフェ・授業中・路上・駅前・レストラン・静かな図書館・会議中・機嫌の悪い恋人の背後、
その他公共の場ではお読みにならないで下さい」
この位の警告がなされなくては、笑いの危機は避けきれない。

いっそのこと、一人で自室にこもって読むくらいの策をとっておくのが吉かもしれない。


コーリイ・フォードの「わたしを見かけませんでしたか?」は
自室にこもって読むのにふさわしいユーモアエッセイである。

世の中の妻達は何故こぞってヒモをためこむのか。
レストランで自分のところにウェイターがなかなかこないのは何故なのか。
ダイエットに成功するためのユニークな手法とは何か。
本書には何気ない日常の一こまを笑いに変化させる名エッセイが19篇収録されている。
おもわず唇の端がゆるむ洒落た笑いを堪能させてくれる一冊だ。

中でも絶品は冒頭の「あなたの年齢当てます」である。
これは中年の男性の身の回りに起きる変化をユーモラスに描いた作品だ。
…最近の新聞は昔より細かい活字を使っているような気がする。
…靴ヒモを結ぼうとすると昔より靴ヒモが遠くなったような気がする。
…家から駅までの距離が倍くらいに増えた気がする。
淡々とした語り口が笑いを誘う。
発表当時から盗作が相次いだといわれるほどの名エッセイである。


解説の南伸坊氏がこう書いている。
「(本書の著者は)冗談なんて一言も言わないような澄ました様子で、
バカバカしい、クダラナイ、オモシロイ話をしてくれるカッコイイ大人なのである」
カッコイイ大人のスマートな冗談を、部屋でこっそり独り占めしてしまおう。

わたしを見かけませんでしたか?  ハヤカワepi文庫


posted by kei at 22:57| Comment(37) | TrackBack(25) | 自宅で読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月21日

新幹線で読む本

所用で静岡まで出かけて来た。

東京から静岡に向かうには、東海道新幹線を利用することになる。
今回は、流線型をした「こだま」に乗って往復した。


思えば、初代の新幹線はもっとずんぐりむっくりとしていたものだ。
先端にまん丸の鼻がついており、どこかユーモラスな表情をもっていた。

「あの丸い鼻の中には何が入っているのか」
という重大な問題を我々に提起したのは、名翻訳家の岸本佐知子氏である。
「グリコの『おまけ』のような『おまけ』が入っている気がする」
「小人が入っている気がする」
以上二点が岸本氏の推理である。
そういわれてみると、確かに「おまけ」が入っていそうな佇まいだ。
(この話題に関しては「気になる部分」で詳しく読むことができる)

「あの丸い鼻は中華鍋と同じ製法で作るのだ」
というあまり重要でない情報を提供してくれたのは、我が父である。
そういわれてみると、たしかに中華鍋と同じ形をしている。
昔の新幹線の先端は、時速200キロで疾走する中華鍋なのだ。
これはもう中華鍋界のエリート中のエリートと呼ぶしかない。

そういうわけで、
新幹線の「鼻」は無駄に想像力をかきたててくれるので大好きなのだが
今の新幹線にはそれが無いのが残念でならない。


「鼻」の無い新幹線では、「鼻」に負けないくらいに
想像力を羽ばたかせることのできる物語を読みたいと思う。

そしてそれが旅の物語であれば、もうこれ以上望むことは無い。


かの有名な「八十日間世界一周」を手に颯爽と新幹線にのりこみたい。
ロンドンの紳士が一人のお供をつれて80日間で世界を一周する物語である。

冒険小説として名作であることはいうまでもない。
インド、中国、日本、アメリカと、偏見と想像を交えてエキゾチックに異国が描写されている。
19世紀のヨーロッパからみた日本の姿はこんなふうであったのかと、
興味を感じること請け合いだ。
謹厳な英国紳士である主人公と陽気で茶目っ気のある従者というキャラクターも魅力的である。
もちろん冒険小説らしく次々と起こる事件が読者を飽きさせない。


世界一周旅行を楽しみつつ、新幹線旅行を楽しむ。
旅行の楽しみは単純計算でも2倍である。

この本を読む場には、特に東海道新幹線をおすすめしたい。
主人公達がたずねてくる日本の都市、それが横浜である。
せっかくならば、新横浜を通過しながら読もうではないか。

八十日間世界一周



posted by kei at 01:45| Comment(21) | TrackBack(0) | 戸外で読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月09日

電子レンジの前で読む本

台所について話をしたいと思う。
ブログのタイトルに「台所」と冠しているのだから、
台所の話をしないわけにはいくまい。

部屋でくつろぎながら読書をする時は、飲み物が欠かせない。
好きな飲み物を飲みながら好きな文章を読む、これが至福である。
行儀が悪いことを承知で、食事をしつつ本を読んでしまうこともあるのだが、
これは食べ物を口に運ぶこととページを繰ることの両立に必死になるばかりで
あまり幸福感にひたる暇もない。
(余談だが、誰にも怒られずにこういった行儀の悪いことをしている時には、
大人になったことの幸福感に酔いしれることができる)

その点、飲み物と読書の両立はいたって優雅なものであり、
まさに究極のマルチタスクといったところ。

この冬はラムココアが良い読書の友になってくれた。
熱いココアにラムを少しだけたらすのだ。
ほかほかと体の温まる魅惑的な一品である。

鍋で牛乳をあたためるのはどうにもおっくうで、
そんな時には電子レンジに頼ることになる。

オレンジ色の光の中で回転するマグカップを見つめているのも
なかなか面白いことではあるのだが、
読書を愛するものとしては、本を読みながら牛乳が温まるのを待っていたいと思う。


ナンセンスの絵本』はそんな場面によく似合う一冊である。

本書はエドワード・リアによるリメリック集だ。
リメリックとは脚韻をふんで書かれる英語の五行詩である。
リアはルイス・キャロルと並ぶナンセンス文学の大家であり、
本書にも言葉あそびの面白さのみにフォーカスをあてたナンセンスな詩が並ぶ。

驚嘆すべきは柳瀬尚紀氏によるその翻訳である。
英語と日本語訳が併記される形でページが構成されているのだが、
造語や新語、駄洒落までもを駆使して、
英語と全く同様に脚韻を踏む翻訳がなされているのだ。
純粋に言葉の響きや言葉の意味のねじれを楽しませるリアの作品を、
同じように言葉自体を楽しむ形で翻訳しているわけだ。
おもわず真後ろにひっくりかえってしまいそうな「どえらい」翻訳である。


くるくると規則正しくまわるマグカップを横目に、
まずは英語で、続いて日本語でリズミカルなリメリックを読み上げてみる。
レンジの音と言葉のリズムがシンクロすれば気持ち良いのに、
とかなんとか思いながら。

カップ一杯の牛乳が温まるまでに、2編くらいは読めるだろうか。
熱いココアを作ったら、本腰をいれて長編小説に取り掛かるも良し、
もう少しリメリックと戯れてみるも良し。

花冷えの折にお薦めしたい一冊と一杯である。

完訳 ナンセンスの絵本

posted by kei at 00:29| Comment(2) | TrackBack(0) | 自宅で読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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